有限会社 一級建築士事務所 クロノス
(2001年9月26日作成;2002年11月15日改訂)
〒141-0021 東京都品川区上大崎4-5-26-1-209
TEL: 03-3779-2001
FAX: 03-3779-4800
E-mail: kronos@air.linkclub.or.jp
和歌山市内にある大正時代の土蔵漆喰壁補修工事を地元の有志のご協力を得て、素人の手による補修を試みています。古い建造物をお持ちで同様の状況にある方々や保存に関心を持っておられる方々に何かの参考になればと考え、作業過程をこの場でこの漆喰壁補修工事の経過を発信することに致しました。以下は2001年9月〜11月に行われた第一期の作業内容です。
文化財として特別な価値は認められなくとも古い建物が持つ素材や意匠の魅力はあります。しかし古いものを残そうとすると必ず立ちはだかる壁が予算です。周囲ではそうした状況を受けて古い建物がどんどん消えていく。こうした現状を心残りに思う気持ちに共鳴して下さった和歌山大学システム工学部本多・藤木建築設計合同ゼミ、キューブ建築研究所の協力機関がなければこのプロジェクトは成り立ち得ませんでした。また、左官職の腕の見せ所である土蔵を素人の手で補修するというこの無謀な試みを深い建築への理解をもって受け止め、指導をお願いした (株)野島建設と瀧川左官の皆さんにこの場を借りて感謝を述べたいと思います。
かつて日本の民家の補修は近隣の住人が助け合いながら行っていたのですが、ここでは職人さんの手を最小限借りて、左官に興味を持っている人々のボランティアで補修することを試みています。
(有)クロノス主幹 西本直子
再開は住宅部分完成後に。11月、 建築主さんにより、今回の補修を中塗り仕上で一度中断することが決定されました。
今回は土蔵の他に住宅部分の工事を進める事が不可欠でした。第4回終了後、天候と隣接する増築部分の作業工程とワークショップの時間調整が難しくなりました。そこで第4回に残った作業を三日間職人さんに依頼して終えた後に、左官の滝川さんとも相談して外壁の防水性能が得られる現状の漆喰中塗り仕上で作業をいったん止めることになりました。土蔵の足場も他の工事を邪魔するために止むなく外しました。今回は平日のワークショップということで、7〜8人の固定メンバーがほとんど全行程を通して作業を行いました。驚くべきことと思います。私はこのメンバーはきっと子供の頃に泥遊びが好きだったに違いないと密かに確信しております。建築を目指している皆さんにはいつかこの経験を生かして貰えることなどあれば幸いです。まずはここまでご協力いただいて本当にありがとうございました。機会があったらまたお目にかかれるのを楽しみにしております。
実際の作業を経験して、泥をこねたり塗り付ける左官作業の行程には素人も巻き込むような原初的な魅力があると思いました。しかし、土蔵の白壁は洗練された左官技術を内包しており、指導する側には難題であったのではないかと思います。職人さんも私達も、素人がどこまでやれるか、まさに手探りの作業でした。特に目指す仕上げ程度について、こちらで思っている程度の前例が見つからず、職人さんとの合意になかなか難しいところがあります。本来ならば事前の試し塗などもすべき所と思いますが、もともとローコスト化から始まった今回の場合、試行期間をとることは許されませんでした。こうした中で前半のワークショップは、なかなか厳しいものでした。参加者の皆さんの熱意が徐々に職人さんを動かし、最終的に厳しくも快い指導を受けることができたように思います。そうした意味では、現場で模索した結果として、漆喰中塗り仕上は職人さんと我々が手探りで得た素人でできる漆喰壁補修の一般的な方法と言えるかもしれません。
そして一つの土蔵を解体から再利用の道につなげることができました。
現状の漆喰中塗り仕上は、ある程度時間を置いても、更に上塗り仕上げを施せる可能性が残されています。目下は上塗りに向けて作業再開の方針を、2003年までに決めるべく検討しています。
幸い時間が与えられましたので、土蔵漆喰壁補修の可能性を探り、可能であれば次回はよく準備して行いたいと考えています。これについて広く専門家のご意見なども伺うことができれば幸いです。
内容についてのお尋ね、或いはご意見など下記メールまでお送りいただければ幸いです。
(有)一級建築士事務所クロノス主幹 西本直子
E-mail: kronos@air.linkclub.or.jp