土蔵再利用計画

2000年5月、建築主さんから住宅設計の相談を受けました。一通り話を伺い、敷地を見に行くと、ぽつんと土蔵が立っていました。「これはどうされますか」と尋ねたことから話は始まります。それまでの打合せでは新築する住居の話のみで土蔵のことは一切出てきていませんでした。これは後で聞いたのですが、建築主は子供の頃から親しんだ土蔵に愛着を感じながらも、それまで相談したハウスメーカーではいずれも取り壊しは自明の理として話がすすみ、私と打ち合わせた頃は、すでに土蔵の再利用を諦めていたとのことでした。
内部では断面が360mm角もある太い栂の棟木が走り、床壁ともによく乾燥した状態でした。外部の傷みとは裏腹に、水ぶきと床板の調整をすれば無垢の板張の部屋を手に入れられることが判り、まず内部を使えるようにすることを優先した最低限の補修で再利用する計画を作ることが決まったのです。建築主夫妻はそれぞれ親から譲り受けた木材が有り、これを使うことになっています。伝わってきたものを受け継ぐという考えがこのプロジェクト全体を動かしていると言えます。問題はこのようなプロジェクトが現代では富豪でもないかぎりなかなか実現できない状態にあることですが、サラリーマンである建築主の計った解決策は発想を柔らかくすることであったかと思います。


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